旅最大の危機、帆船移動。 -ムルンベ~ベルー・スル・メール-

written by kayo

まだ空も暗い朝の5時。部屋にノックの音が響く。

約束の時間ぴったりに、宿のスタッフと帆船のキャプテン・ザピーが迎えに来てくれました。

大きなゴミ袋で二重に包んだ荷物と、ホテルで買い込んだ水、そして食糧のお菓子とフランスパンを抱えて海へ。

ホテルの目の前のビーチには、ポツンと一艘の帆船がお出迎え。

足を海に浸しながら船へと向かうと、乗船済みの若い男の人が1人。

今回、ザピーと一緒に私達をムルンダヴァへと連れて行ってくれる、相棒のマイエでした。

「ボンジュール、マダム。」なんて言われて握手。マダガスカル人らしい良い笑顔。

全員乗り込み、荷物を固定して、いよいよ出発!

帆船は順調に風を受けて走り出しました。

マダガスカル帆船移動

目の前に広がる景色は、吸い込まれそうな紫とオレンジ。

見とれてしまうほど綺麗な朝焼けの中、未知の旅が始まりました。

心地よい静けさと、通り過ぎる風の感触を味わいながら、日常とはかけ離れた瞬間に感動。

漁をしているのか、他の船も何艘か浮かんでいました。

マダガスカル帆船移動

まるで絵本の中の世界みたい。

船乗り達は皆知り合いらしく、ザピー達は笑顔で声をかけ合っていました。

最初からこんな景色に出逢えるなんて。帆船移動、やっぱり正解だったかな。

マダガスカル帆船移動

しばらくは2人とも朝焼けに夢中。

ザピーとマイエにとってはいつもの景色なんだろうな。

マダガスカルで帆船に乗るのは今回が二度目。

一度目は北のアンツィラナナで、エメラルドの海へ行った時。

その時は横に寝っ転がれるくらいの大きな帆船で、風が無くなった時の為にエンジンも付いていました。

しかし今回の帆船は、大きさだけで言えば半分以下。

幅は人が縦1列に座れる程で、ひっくり返らない様、右側に浮き木が付いてます。

エンジンは付いておらす、風の力だけで進むタイプ。

なので進み具合は、風に大きく左右されます。うーん、未知。

マダガスカル帆船移動

少しずつ、空が色を変えながら明るくなってきた。

マダガスカル帆船移動

そして朝日。

この頃には他の船もいなくなって、何にもない。誰もいない。

マダガスカル帆船移動

何度も見てきたはずの朝日が、こんなに特別に感じるのはどうしてだろう。

マダガスカル帆船移動

記念撮影もパシャリ。

2人とも、今日の朝日はずっと忘れないね。

マダガスカル帆船移動

すっかり青空が広がって、ひたすら続く海と空を、風の力だけで進んでいく。

なかなか良い感じのスピードで走り続けていたのが、9時頃から2時間程、ぱったりと風が止んでしまいました。

もちろん船も完全に失速。

そんな時はザピーが一生懸命オールで漕いで、少しでも前に進んだり、風が吹いてる場所まで移動したりしてくれました。

マダガスカル帆船移動

頼れるキャプテン、ザピー。

顔は「ザ・ピュア」って感じで超可愛いです。

マダガスカル帆船移動

細い棒の上で器用に立ったり座ったり。

もう慣れたもんよって感じでした。

マダガスカル帆船移動

こんなポーズもできちゃうもんね!

って別にサービスでやってくれてる訳ではなくて、真剣に進路や風を読んでます。

しかし船乗りの、「風を読む、風をつかむ」っていう技には感動した!

しばらく海を見つめ続けて、急に勢いよくオールを漕ぎだしたかと思うと、いつの間にか船が風に乗って走りだす。

彼らには何がどんな風に見えてるんだろう。

マダガスカル帆船移動

マイエは後ろに座って、進路を調節してくれてました。

2人とも頼もしいし、良い人そう。

うん、そう思いたい・・・。

実はこの時まだ、正直2人の事を心から信頼できていませんでした。

言葉が分からないから色々聞いたりできないし、2人がどんな会話をしてるのかも分からない。

それは向こうも同じだったんだろうけど、頭の中では最悪のパターンを想定してたり。

「本当にちゃんとムルンダヴァまで連れてってくれるのかな・・・。

海のど真ん中で私達を突き落として、荷物を全部持ってく事もできるしな。

となると凶器はオールか? クロがいるとはいえ、向こうは海の男2人だし。

これで行方不明になったらどうしよう・・・。

でも一緒に年越しした、ゆう&まみさん夫婦とタカオ&アキさん夫婦が、うちらが帆船に乗る事を知ってるから、いざという時は証言してくれるはず!」

そんなこんなで10時頃、ご飯タイム。ザピーとマイエが、お米で作ったパンの様なものをくれました。

食事付きなんて条件ではなかったけど、数的に私達の分も用意してくれてたのかな。

不思議な食感だったけど、なかなか美味しかったです。

太陽は真上に昇り、容赦なく陽射しが照りつける。

そういえば、トイレってどうするんだろう。

船の上じゃ隠れられる所なんてないし、だいぶ沖を走ってるから浜に寄るのも厳しそう。

暑いけど、とりあえず水分はあまり取らない様にしてました。

大きめの揺れが長時間続いた時も。本当に船酔いしない2人で良かった。

景色も変わり映えしないので、堅い板の上に座り込み、何度も眠りました。

きっと夕方前には、今夜1泊する予定のベルー・スル・メールに着くだろう。

しかし、そんな予想はあっさりと裏切られ、空はだんだんとオレンジ色に。

マダガスカル帆船移動

そして、夕日沈んじゃった。あれれ、いつ着くのかな?

さすがに普通に考えて、夜になる前には着くよね。

とりあえず今は、この絶景を満喫しよう。

マダガスカル帆船移動

雲と波の光り方がすごい綺麗。

帆船移動の景色、レベル高過ぎだよ。

ってあれ?左の方、何だか様子がおかしいぞ?

マダガスカル帆船移動

大雨だ!降られなくて良かったー。

遠くから見てる分には、夕焼け色に染まって綺麗すぎ。

こんな幻想的な景色が、自然の中には当たり前に沢山あるんだね。

マダガスカル帆船移動

マイエも気になるのか、何度も振り返る。

気になるのもそのはず。だってあの雨雲達、こっちに向かって来てるんだもの・・・。

マダガスカル帆船移動

ザピーも察知した様で、オールで漕ぎ始めた。

大変そうだったので、うちらもちょっと手伝いました。重くて結構大変!

必死に雨雲から逃げ続けているうちにも、空はどんどんと暗くなり、いい加減着くよねって思っても船は進み続け・・・

マダガスカル帆船移動

完全に夜になっちゃいました。

月明かりオンリーです。

真っ暗な海に浮かんでるのは、私達の船一艘だけ。

この展開、こないだのタクシーブルース移動と似てるなぁ・・・。

しかし今回、本当の試練はここからでした。

相変わらず陸に向かう様子はなく、進み続ける船。

どこまでも広くて静かな空間に、たった4人だけ。

何だか、私達だけ違う世界にいるみたい。

日本に暮らす人達からはもちろん、同じように世界を旅してる人達からも、すごく離れた場所にいる様な気がしました。

早く到着したい思いで陸の方を見ても、明かりが1つも見当たらない。

薄暗いシルエットで見えるのは、うっそうと茂る木々達だけ。

ここでギブアップして、浜辺に向かっても何にもない。

今夜はとにかく、目的のベルー・スル・メールに辿り着くしかない様です。

覚悟を決めてからしばらくすると、小雨が降り始め、何だか波も大きくなってきた。

明らかな異変を感じ、左側の水平線に目をやると、真っ暗な海の向こうから、端から端が分からない程の長ーい波が、一線状に真っ直ぐ向かってきてる。

その光景は、津波にそっくり。

「地震でもあったのかな・・・。」

そんな事が頭を過ぎると、一気に恐怖心に襲われました。

波が帆船に辿り着くと、今までにないくらい横に傾く。

必死に船の縁を握りしめ、次の波がやって来て船が傾きかけた時、予想もしなかった事が。

「ザザザザーーーーッ!!」と音を立てて、船底が海底に擦った。

一瞬、何が起きたのか理解できず。

真っ暗なのと、浜辺からかなり距離があったので気付かなかったけれど、いつの間にか潮が引いて、かなりの広範囲が浅瀬になっていたのでした。

少し安心したのもつかの間、波が来ると浮き木が海底に引っ掛かり、逆にひっくり返りやすくなってる。

するとザピーとマイエが帆船から飛び降り、走って船を沖へと押し始めました。

何度も座礁してしまう為、降りては押して、乗っては漕いでの繰り返し。

雨は強くなり始め、雷の音が聞こえる。

この時、小学生の時にテレビアニメで観た、「ガンバの冒険」を思い出してました。真っ暗な海で嵐にあうシーンを。

そうしてる間に、遥か彼方の陸地にベルー・スル・メールの明かりが見えてきた。

けれど潮が引き過ぎてて、全然浜辺に近づけない。

最終的にはクロも手伝って、少しでも海水の深い所を探しながら、船を押して進む状態に。

少しずつ少しずつ、浜辺に近づいていた時、突然ザピーからみんな船に戻る様に言われました。

巨大で真っ黒な雨雲が、私達の頭上にやって来ていたのです。

言われた通り、船の中で小さくうずくまると、たたんだ帆が上から船全体にかぶせられました。

外が全く見えなくなり、近づく雨音を聞きとろうと耳をすましていると、とうとう背中に水滴の感触が。

降り始めたかと思うと、一瞬ですさまじい勢いに。

帆をかぶってるとはいえ所詮は布。あっという間に浸透して、滝の様な水が体中に降りかかって来ました。

何度も手で顔をぬぐわないと、息が苦しくなるくらい。

全身はすっかりずぶ濡れになってしまったけど、そんなのはもうどうでも良い。

とにかく心配だったのは、荷物の中のパソコンとハードディスク。

袋で二重にしてるとはいえ、これだけの水量だと隙間から流れ込んでてもおかしくない。

旅の写真とホームページのデータが入ったこの2つは、ただの電子機器じゃないんです。

思い出と思い入れがめいっぱい詰まった、1番大切な貴重品なんです。

でも無事であって欲しい気持ち半分、最悪の結果を冷静に受け入れてる部分もありました。

帆船移動を選択したのは自分達。旅に出るのだって、自分達が決めたこと。

もし自分達が選択した事で心折れたり、旅を続ける気持ちがなくなれば、その時は日本に帰れば良いだけの事。

最後まで悪あがきはするけどね。冷え切ってかじかんだ手で、袋の口を握りしめ、一向に弱まらない豪雨にひたすら耐える。

どのくらい時間が経ったか分からない頃、全く変わらない状況に諦めたザピーとマイエが、雨の中へ飛び出して再び船を押して走り始めてくれました。

しばらくすると、無事にベルー・スル・メールに到着。

そこには村があるはずなのに、どこにも明かりは見当たらず真っ暗。

マダガスカルでは電気が通っていない所、夜は停電してしまう所が多いんです。

まだ雨の降る中、寒さでガタガタ震える体で何とか陸に上がり、一先ず貴重品の入ったサブバックだけ持って浜辺へ。

すると一軒のバンガローを発見。

ドアの前にはイスが置かれたテラス・スペースがあったので、とりあえず雨宿りしようと向かいました。

屋根のある場所に辿り着いてホッと一息してから、私がその場に残りサブバックを見ておいて、クロが船に戻りバックパックを取りに行く事に。

1人になってふと時計を見ると、夜の10時半。その時、まさかの事態が・・・。

突然、バンガローの中から、誰かにライトで照らされた。

真っ暗だったから誰もいないと思ってたけど、人が寝てたみたい。

何か言われてるけど、フランス語みたいで分からない。

状況的に「誰かいるの?何してるの?」って言われてたんだろうけど。

絶対に文句を言われるだろうと覚悟してると、何と中から姿を現したのはマダガスカル人ではなく、パジャマ姿の欧米人のおばさん。って事はフランス人?

少し遅れて、旦那さんと思われるおじさんも登場。

文句を言うどころか、こんな時間に見た事もないアジア人の女が、ずぶ濡れで1人突っ立っている状況に理解が追いつかなかったらしく、「あらあら・・・。まぁまぁ・・・。」しか言えない様子。

何とか混乱する頭から、1つの質問を絞り出したみたい。

おば「どこの国の人?」

見るからに穏やかで優しそうな人で、ゆっくりした英語で話してくれる。ちょっと一安心。

カヨ「日本人です。寝てたのに起こしちゃってごめんなさい・・・。」

おば「良いのよ。それは良いのよ。で・・・(海の方をチラッと見て)どこから入って来たの?」

ハッ!しまった・・・!さっき無我夢中で腰下くらいの柵を飛び越えて来ちゃったけど、勝手に敷地内に入って来ちゃったんだ・・・!これって不法侵入だよね。どうしよう・・・。ここはとりあえず、ちょっと英語が分かんなかったふりしてすっとぼけよう。おばさんゴメン!

カヨ「ムルンベから、船で来ました・・・。」

おば「まぁ、ムルンベから?1人で来たの?」

カヨ「いいえ、夫と・・・あっ!彼らと一緒です。」

その時、浜辺から荷物をかついで歩いてくる3人が見えた。

するとおばさんから、思いもしなかった言葉が。

おば「あらそうなの。で・・・今夜、部屋は必要なの?」

部屋・・・?そういえば、マダガスカルで暮らしてるフランス人て、大概がレストランかホテルのオーナーだったな。するとここはもしかして・・・

カヨ「ここって、ホテルなんですか?」

おば「そうよ。で、部屋は必要?」

まさか、訳も分からず辿り着いた場所がホテルだったとは!

戻ってきたクロに説明して、今夜はここに泊まらせてもらう事に。

ジェスチャーでザピーとマイエに今晩はここに泊まる事を伝えて、2人はどうするかと尋ねると、自分達は他の場所に行くと。

どうやら、漁師や船乗り達がいつも泊まる場所があるみたいです。

せっかくなので、おばさんにフランス語で、明日は何時に集合かザピー達に聞いてもらう事に。

ところが何だか反応が悪いので、もう一度おばさんにお願いすると、重大な事実が判明。

おば「さっきから伝えてるんだけど・・・。この人達、フランス語分からないみたいよ。」

クロ・カヨ「えっっっ!!!」

私達は今までの流れで、すっかりマダガスカルの人達はフランス語を話すもんだと思ってしまっていたんです。

でも確かによく考えたら、ウェズ族の人達がみんな話すわけない・・・。

マイエが「ボンジュール、マダム。」って言ってくれたけど、挨拶程度だったんだ・・・。

つまり、「指さしフランス語」だけしっかり用意していた私達と彼らの間には、通じ合う言語は一切なかったんです。

マダガスカル語なんて、サラーマ(こんにちは)とミサウチャ(ありがとう)しか知らないし。

結局、意志疎通できず、明日の集合時間は分からないまま、今夜は別れる事に。

おじさんとおばさんは雨の中、濡れてしまうのも気にしないで、快く部屋に案内してくれました。

食事の事も聞いてくれたけど、さすがに今から用意してもらうなんて申し訳なさ過ぎるので断わりました。

マダガスカル帆船移動

バンガローの中はこんな感じ。

ずぶ濡れの状態でまずした事は、荷物の安否確認。

開けてみると、何と・・・全て無事!!

クロのバックパックが少し濡れていたくらいで、貴重品には一切問題なし。

水が入り込んでないのが不思議なくらいの状況だったし、もう半分は諦めてたのに・・・。

疲れ切った体で、一晩で乾くはずもない服達を絞ってハンガーにかけ、すっかり忘れていたトイレに行き、熱々とは言えないけれど、ほのかに温かいシャワーを浴びました。

持ってきてたフランスパンは、雨水をめいっぱい吸い込んで食べれなくなってたけど、今夜は何かを食べる気力もない。

何とか最低限の事だけ済ませ、吸い込まれるようにベッドへ。

2人とも無事、荷物も無事。宿もこんな風に見つかるなんて。

考えてみたら、あんな村中真っ暗な状況で、どうやって宿が探せただろう。

ザピー達がどこかに連れてってくれたかもしれないけど、こんな日にフカフカのベッドで眠れる事は、私達には大き過ぎた。

体はまだ冷たいのに、目からジワーっとあったかい涙が出てきた。

安心感と、ありがたさから来る、すごく幸せな涙だった。

あんなボロボロな状況で、人から優しくしてもらった事。

最悪の事態まで覚悟したのに、全てが無事だった事。

全部がありがたすぎて、身にしみすぎた。

これからも旅を続けさせてもらえる事に感謝しよう。

ちゃんと2人で元気に帰ろう。

そんな事を考えながら、いつの間にか深い眠りに落ちていったのでした。

Category: 33.マダガスカル Comment »

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