忘れられない帆船の旅 -ベルー・スル・メール~ムルンダヴァ-

written by kuro

雨にも負けず、風には吹かれず、

波にも、潮の満ち引きにも負けぬ

丈夫なピローグ(帆船)をもち

欲はなく 決して怒らず

いつも静かに笑っている

マダガスカル人 ザピー&マイエ

そういう彼らが、フランス語を しゃべれない事を

わたしは昨晩、初めて知った。

・・・・・・

AM5:00になる少し前、一人静かに起床。

「ちょっと、見てくるからー。」

外はまだ真っ暗だった。星は見えず、空は雲に覆われている。

懐中電灯を持ち、暗闇の海をちょっとずつ照らしながら、海沿いを歩いて行く。

近くに、乗って来た帆船(ピローグ)は見当たらない・・・。

真っ暗だし、探すのにも限界がある。

最悪なケースも脳裏によぎる。

嵐の中、近代機器を持ち歩き、雨にもビビる先進国の人間に嫌気がさしたか?

このまま、こんな移動手段の少ない場所に放り出されたらどうするかな。

まあ、前金しか払ってはいないし、英語のしゃべれるフランス人夫妻もいるから、どうにかなるか。

そんな事を考えながら、一度バンガローに引き返す。

外が明るくなってから、もう一度探してみることにした。

そもそも、今日は出航できるのかな・・・。

宿を経営するフランス人夫妻は、

「大きなストームが来ているから、しばらくは無理よ。」と断言していたし、

おれらは、ザピー&マイエと予定の意志疎通をできていない。

でも、あんなに真っ直ぐな顔をした彼らが、おれらをこんな辺鄙な場所に放り出して去って行ってしまうって事は、きっと無いだろう。

しばらく、バンガローでぼーっとしながら、外が明るくなるのを待つ。

AM5:20頃。

曇っており太陽は全く見えないが、外が少し明るくなり懐中電灯なしで周りを見渡せれるようになっていた。

しかし、乗って来た帆船は見当たらない・・・。

ザピー&マイエの姿も見えない。

「まいったな・・・。本当にいなくなっちったかな。」

どうにもならない状況に、1人で開き直って苦笑い&にやけ笑いの半々・・・。

海辺を見渡しても、似たような帆船が動き出してはいるが彼らの姿は無い。

そういえば、何色の帆船だったっけ?

出発時の記憶は、昨日の無力な出来事達に完全に掻き消されていることに気付く。

10分ほど歩いていると、帆船が並んでいる漁村が遠くに見えて来た。

もしかしたら、あの漁村で寝ているのかな・・・。

最後に、そこまで行ってみるか。。

気持ちの良い朝の海岸線を歩いて行く。

道行く人達がみんな笑顔で挨拶をしてくれる。

心は少し元気になったが、彼らの姿は見当たらない。

おれは、笑顔で挨拶を返していたつもりだったが、不安が拭えず心から気持のよい挨拶をできていなかった気がする。

とりあえず、漁村まで行こう。

気を取り直して歩いて行くと、

「あっ!!」

200メートルぐらい先から、一直線にこっちに走ってくる男がいる。

ザピー・・・??

彼はこっちを認知できているようだった。

日頃から船に乗り水平線を見ている彼らのほうが、きっと目がいいんだろう。

そもそも、観光客はあまりいない感じの町だったし。

こっちも駆け寄って行くと、間違いなく素朴でキョトン顔なザピーだった。

「サラーマ。」←マダガスカル語での日常に交わす挨拶。

すごい笑顔で元気そうだし、ちゃんと居てくれて良かった。

すごく、ほっとした。

一瞬、疑ってしまった自分が恥ずかしくなってしまったよ。

すまん・・・。

そして、ここからジェスチャーでの意思疎通がまた始まる。

フランス語ならとダウンロードした、ポケット辞書も今となっては不要。

マダガスカル語&日本語。

ジェスチャーと、顔の表情できっと心は繋がる。そう思っていた。

まずは、曇天の空を指差して、

オールを漕ぐ真似をして、ムルンダヴァの地名を言ってみる。

ザピーは、ウンウンと頷き、オールを漕ぐ真似をして、おれらの泊まるバンガローがある方を指差す。

オーケー。ホテルの近くまで帆船で迎えに来てくれるというのだな。

ムルンダヴァに今日も向かうのは間違いなさそうだ。

ほいじゃ、時間は??

これが難関・・・。

おれの時計は、G-ショックで針は日本時間に合わせたまま、デジタルの表示をマダガスカル時間にセットしている。

時計を指しながら、日本。これがマダガスカル。っと説明してみるが、きょとんとしている・・・。

ザピーも時計もっていないし・・・。

うーむ、

強引に無理やり、自分の時計の分針を指しながら、30分後までスライドするジェスチャーを繰り返す。

3、0。3、0。とか指を3本立てて、必死に30分後の合流を訴える。

ザピーが、ウンウン!!と頷き、マダガスカル語で何やら笑顔で話してくる。

・・・・・・。

たぶん、わかってくれたようだ。。

たぶんね・・・。

それじゃあ、後でねって思って宿に戻ろうとした時、

今度は、ザピーがジェスチャーで、

ご飯を食べる真似をしている・・・。

うんうん。わかった。ご飯食べてから迎えに来るんだね。

いーよ。勿論。

後に分かる、限界のあったジェスチャー会話。

そんな事はいざ知らず、笑顔でその場を別れる。

バンガローに戻ると、カヨも元気そうだったので安心した。

雨に打たれ続けて全身びしょびしょ、ぬるいシャワーしか浴びれず、コンセントが使えなかった昨晩。

髪が長い女性の方が、圧倒的に風邪を引きやすかっただろう。

大丈夫そうだな。

準備では昨日の教訓を生かして、本日は更に何重にも袋で電化製品を防護する。

「いざ、冒険の旅へ!!」

とは言ってみるものの、本音は早くムルンダヴァに到着したかったかな。

それほどに、海の上では俺らは無力だった・・・。

AM6:00過ぎ、約束の30分後にちゃんと迎えが来た。

帆船(ピローグ)。

これに4人で乗る。楽しそうでしょっ!?

ピローグ

砂浜から、ふとエコロッジと言う名のバンガローを振り返る。

大雨で視界も悪い真っ暗な夜に辿り着いた宿。

夜は扉が閉まっていたので、横の柵からよじ登って不法侵入・・・。

それほどに、大雨の嵐の中で常識ある行動を取る余裕が無かった。

救いのエコロッジ

普通なら一言ぐらい文句を言われてもおかしくないのに、ただおれらの心配だけをしてくれてすぐに寝床と飲み物を用意してくれたフランス人の夫婦。

半泣き状態だったのを、笑顔で救ってくれた。

本当に有り難かった。

感謝の気持ちだけは、昨晩手渡してはいるが、やっぱりもう一度お礼がしたかったな。

早朝出発する予定だから、鍵はバンガローに挿しておくと伝えてあった。

あまりに厳しい状況下での人のやさしさに、今でも思い出すと熱いものが込み上げてくる。

アドバイスは、「嵐が来ているから少なくとも2,3日は留まった方がいい。」との事だったけど、ザピーとマイエを信じて先を急ぐことにします。

本当にまたいつか、この宿に戻ってきたいなあ。

名残惜しいけど、出港っ!!

ピローグ

写真を見るとわかるかな?海からこの町に入ってくるにはあまりに浅瀬が多い。

真っ暗な夜中に到着するのは、やっぱりきつかったね。

よく辿り着いたものだ。

それに改めて空を見上げると確かに、今日も雲が厚い。

スクープ写真を撮るのもいいけど、それよりカメラの保護を優先と決め、カメラもしっかりと袋にしまい、心で感じる自然の旅を開始する事にした。

暗い空

出航時は、風が少しはあったのだが、沖に出て行くとまた風がピタリと止まってしまう。

帆を巧みに操作するが、なかなか風を捉えることができず、

波を見ては風の吹きそうな海域へと進路を少し変える。

オールで漕ぐ時間が増えていく。

雨は今の所は大丈夫そう。曇天のおかげで、昨日ほどは暑くはない。

時間だけは刻々と過ぎていく・・・。

お腹も空いてきた。

そういえば、昨日の夜から何も食べていない。

早朝からホテルのレストランが空いている訳はなく、買っておいたフランスパンは昨日の嵐にやられ水没して食べられる状況でもない。

フランスパンは、食料兼、帆船の上から釣りでもしてやろうと思って持ってきた訳だが、餌としてこねる気分にもならない。

本当は、鳥肉とかを釣りの餌として持ってきたかったんだけど、上手く調達できなかった。

釣りしながら、自給自足なんて事も無理か・・・。

おれらの手持ちの食料はこれだけ・・・。

遭難者の気分にでもなりそうだった。

ひもじい

緊急用のお菓子をつまむ2人。

ザピーとマイエにもお菓子をあげたが、あんまり好きそうじゃなかった。

ザピーがきょとんとした顔をして、またジェスチャーをしてくる。

ご飯を食べるジェスチャー&おれらを指差す。

ご飯食べてないのか??って、驚いた顔をしている。

・・・・・・。

一つ納得した。

早朝、ザピーがご飯を食べるジェスチャーをした意味を。

ご飯を食べてから迎えに行く。っていうジェスチャーでは無かったのだ。

ご飯は食べたのか??、ご飯は必要か??

というジェスチャーだったのだ。

マダガスカル人の人柄を考えれば、すぐにわかったはずだったのかもしれない。

彼らは本当にやさしい。

きっと彼らだけの昼ご飯だったであろう、ご飯を潰してこねて焼いた焼き餅みたいな物をまたくれた。

風は強くなったり、ピタリと止まったり。

これが帆船での旅。

順風満帆でどんどん進んでいく時、

急に風が回り逆風になって、なんとか進路をずらしながら切り上がって進む時、

風が止まり、オールでずっと風の吹く場所を探したりを繰り返す。

大変かな?って思って、オールで漕ぐのを手伝ったりもしたけど、

ザピーとマイエは、これが普通とばかりに平然とオールを漕ぎ続ける。

風を見つけると、帆の向きを変えて、添え木との間にぶら下がる重りの位置を変更する。

これが船乗りか・・・。

すごく感心したし、興味深い、おもしろい大きな経験。

でもね、

おもしろいなあ。って見とれている時間→10%

ぼーっと景色を無心で眺める時間→20%

オール漕いだり、お菓子つまんだり時間→5%

残りの65%の時間→ → → 寝る。目を覚ましては寝る。

これが現実。

早く時間が過ぎないかなあ。早く着かないかなあ。ってひたすら寝て誤魔化す。

スペースのあまり無い帆船の上で、20センチぐらいの幅しかない木の上で器用に寝るのが徐々に上手になっていった。

はっきり言って、背中は痛い・・・。

カヨも船底で、うずくまって寝ている。

こういう時でも、マダガスカルの時間の流れはゆっくりと進んで行く。

できるだけ時間の事を考えないようにして、不貞寝・・・。

PM2:00を過ぎたぐらいだっただろうか、周りに少しずつ他の帆船が見えるようになってきた。

ムルンダヴァに近づいてきたのかな。

一度、強面の男達が乗る一艘の帆船とすれ違った・・・。

男達はずっとこっちを見ているし、おれらの帆船も近くへと向かっていくもんだから、

思わず・・・

人身売買されるのではないかと思ったっ!!

こんな海の上じゃ、どうしようもできない・・・。

「ここから陸まで、泳げるか??」なんて、本気でカヨと話し合っていた。

心配は杞憂だった訳だが・・・。

ザピー&マイエが悪人だったら、もしくは急に海賊に追われたら・・・、アウトだろうな。

やはり、それなりのリスクが存在する移動だと再確認した。

こんなブログの記事を見て、帆船での移動を試みる旅人もいるかもしれない。実は、おれらも友人の体験を基にして決定した移動である。

でも帆船はそれなりのリスクが存在する移動、と言う事だけは知っておいたほうがいいかもしれない。

タクシーブルース強盗もメインは旅行者を狙っている訳だし、帆船にだってその可能性が無い訳ではない。

幸いおれらを乗せた帆船は、時間はかかりながらもなんとか前に進んで行く。

今日中に、ムルンダヴァに到着できそうだ。

そして、PM4:00を過ぎたぐらいにムルンダヴァの町がある陸の岬が見えてきた。

しかし、ここからがまた長かった。

順調に風を受けていた帆は、急にしぼんで行き微風へと変わっていく。

陸沿いに進路を変更して進むが、結局ピタリと風が止まる。

ザピーとマイエは、オールでまた漕ぎ出す。

近くにいる他の帆船も苦戦している模様。

時間だけが刻々と費やされる。

ふと背後を見るとまたでかい雨雲が遠くから、こちらに向かってきている。

また昨日の悪夢の再現か?

そして日が傾いてくると同時に、潮が引いてきいく。

ゴォーーッっていう音と共に、

視界に飛び込んでくる、どこからともなく出現してくる波。

またか・・・。

最後の最後でまた逆境に立たされる。

ザピーとマイエは必死に、波の高い場所を避けながら、一歩一歩と前進を続ける。

2人の視線にも、まだ遠いが後ろから迫ってくる雨雲を捉えている。

いつの間にか、PM6:00を過ぎていて

陸にだいぶ近づいた時、曇天の下から沈む夕日が顔を出した。

こんな状況なのに、それが急に色づいてきれいに変化していく。

彼らは必死に帆を操り、オールを使い、雨の到来より前におれらをムルンダヴァに送り届けてくれようとしている。

そんな心意気が、伝わってきてうれしかった。

そして、

ムルンダヴァの砂浜を視界に捉えた数分後、彼らにとっては普通の事だが、おれらにとっては最高の出来事が起こる。

押し寄せる波を警戒して、カメラは完全防備のリュックの中。

写真はないので、できる限り想像してほしい。

押し寄せる波と並行に進んでいたピローグは、急に方向を変え押し寄せる波を背に垂直に構えていく。

波が来る前にザピーとマイエが、オールで思いっきり漕ぎ出すっ!!

まさかっ・・・。

押し寄せてくる波の先には、黒い雲の下に広がる真っ赤な燃えるような夕日。

一つの大きな、きれいな波に焦点を合わせている。

ホントにッ??

波が来た。

・・・・・・。

その瞬間、ピローグはスーーッとまるで陸から糸で引っ張られるように、急に速度を上げる。

「乗ったーっ!!」

波の上を帆船が滑っていく。

この時の感動は、いつまで経っても忘れることはないだろう。

4人を乗せた帆船は、きれいに波に乗って一直線に陸に向かっていく。

そう、帆船(ピローグ)で、サーフィンしながら進んでいるのだ。

あの気持ちの良い自然のジェットコースターのような感覚が、まさか帆船でも体感できるとは。

夕焼けの空の中、大変だった二日間の移動疲れが一気に吹っ飛んだ。

いきなり訪れたそんな結末に、2人とも涙が出そうなほど感動した。

写真は無いが、今でも確実にその光景が浮かんでくる。

帆船はきれいな波と共に、150メートル弱を一気に進んで行った。それぐらい波のコンディションも良かった。

帆船の大移動が終わってしまう。

なんだか、急に寂しく感じられた。

そしたらね、ザピーとマイエがホテルの近くまで水路から送ってくれると言う。

まだもう少し、この2人と帆船と一緒にいられる。

なんだか言葉にできないほど、嬉しかったな。

いつの間にか、ザピーとマイエ、彼らの帆船に情のようなものが生まれていたのだろう。

ホテルに向かう水路に入って行く途中で、ようやくカメラを取り出す。

これよりもっと、もっときれいな夕焼けの時間に、赤く照らされキラキラと光る波にサーフィンみたいに帆船ごと乗って、ムルンダヴァに到着。

そりゃ、感動するだろう。

夕焼けの到着

帆船は静かに、ホテルの前の船着き場に到着する。

別れの時間が近づいてきた。

辺りは完全に真っ暗に変わっていた。

2日間、苦楽を共にしたマダガスカル人の2人。

彼らにとっては日常的なことだが、日本人は初めてだと言っていた。観光客を乗せた事があるのかは聞いていない。

彼らにとっても、ちょっとした思い出になってくれていると嬉しい。

面倒なだっただけかな・・・?

ザピーとマイウ

写真左がキャプテンのザピー。右がマイエ。真ん中がおれ。

写真なんかに慣れておらず、真剣な顔をしているのがなんとも可笑しい。おれもか・・・。

ホテルまで荷物を運び終えると、残りのお金16万アリアリ(6400円)を手渡す。ちなみに、出航前日に前金として4万アリアリ(1600円)を渡している。

それに、少ないかな?って思っていたんだけど、

5000アリアリ(200円)ずつ、2人に気持ちも渡す。

・・・・・・。

えっ?チップもくれるの。嬉しい。本当に有り難いって。

お金を拝むような顔をして、喜んでくれたザピーの顔を思い出す。

本当に素朴で、真っ直ぐなザピーとマイエ。

この2人と出会えて、この2人と一緒に移動ができて、本当に楽しかった。

ザピーとマイエが、今回の船乗りで本当に良かった。

帰り際、何度も何度もお礼を言った。

ミサゥチャ(ありがとう)、ミサゥチャーーッ、ミサゥチャーーッ!!

ヴェルーマ(さようなら)。

ザピーとマイエには、いつもこんな時間が流れているんだと思うと、少し羨ましくも感じた。

おれらが、帰国して日本の日常がまた始まったとしても、ここの時間は変わらずいつまでも存在するのだろう。

人々は、素朴で真っ直ぐ。日々の最低限の生活品と満たされた心。

一方では、必要以上に便利な物に囲まれ、くだらないプライド、世間の目、下を向きながら歩き、自分を中身以上に必死に大きく見せていないと居場所がなくなるような国もあって・・・。

幸せな心と、生活のバランスって何・・・?

先進国って幸せ・・・?

いつか何かを見失いかけた時に、またこの場所に戻って来たいと心から思った。

大移動を終えた夜、そんな心境だった。

結局この移動で、30時間ほど帆船(ピローグ)で海の上にいた。

間違いなくこの2日間は、人生においてもすごく大切な時間になるだろう。

Category: 33.マダガスカル Comment »

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